『美味しんぼ WWF編』(作・プー林さん)


世界最大のプロレス団体、WWFが日本にやって来ました。
前原運動部長にチケットを頂いて、みんなで観戦。世界一の迫力に、大満足です…

「いやー、面白かったねえ!特にあのビッグショーのデカいことといったら!」

「またあ、副部長はステーシーの脚ばかり見てたくせに!」

「い、いや私はけして…」

「そういう山岡君も、やたらとトーリーをジロジロ見ていたじゃないかね」

「まっ!」

「やあねえ、男どもって」

「まったくだわ。プロレスを見に来たんだか、金髪美人を見に来たんだか、わかりゃしないもの」

「あーあ、コンプレックスってのはやだねえ。いくら自分が、典型的な日本女性の体型でずん胴だからって…」

(田畑、無言で山岡を殴る)

「アテテ…ところで、興奮したら腹が減ったな。どこかで食事して行こうよ」

「おお、それだったらちょうどいい。実はビンス・マクマホンとこれから食事の約束をしているんだ。
君たちも一緒にどうだね」

「えっ!前原運動部長、ビンスとお知り合いなんですか!?」

「ああ、彼も私もまだ駆け出しの頃に、一度取材をしたことがあってね。それ以来の仲さ。さ、ここだ、入りたまえ」





「やあマエハラ、久しぶり」

「ビンス、元気そうだな!」

(すごい貫禄だわ…。これが世界のプロレス界のトップに立つ人間の威厳なのね…)

「マエハラ、例の二人は…」

「ああ、連れて来たとも」

「?」

「山岡君、栗田君、ビンスは何か食べ物のことで相談があるというんだよ。君達を誘ったのもそのためなんだ」

「はあ…」

「俺達にできることなら、協力しますよ」

「ふむ…実はここにいる、スパイク・ダッドリーのことなんだ」

「まあ!普通の方と体格が変わらないから、気付かなかったわ…」

「あれ?おたく、さっきヒール軍団にボコボコにやられてた人だよね?」

「副部長…!」

「あ…」

「いいんです、事実なんだし…。僕はこんな身体だから、やり返すこともできないし…」

「このスパイクは、運動神経はいいし、受け身もうまい。そのセンスに惚れ込んでスカウトしたんだが、
いかんせん身体が細過ぎる。惜しいのだよ、彼にはベルトを獲れる実力があるというのに…」

「そこで君達に相談なんだ。スパイク君の身体を大きくする食事を、考えてくれないかね?」

「ええっ、何ですって!」

「マエハラから、君達が『アルティメット・メニュー』というものを作っていると聞いた。
君達なら、太りにくい体質を改善する食材を、知ってるんじゃないかね?」

「難しい問題だわ…」

「今、どのくらい食べてるの?」

「頑張ってはいるんです。ピザやハンバーガーなどの高カロリー食品を一日五回は摂っていますし、
寝る前にはドーナツを十個食べたり…」

「ふええ、そんなに!」

「それでも太らないなんてっ…!」

「そんな食生活を続けてたら、太る前に健康を害しちまう…。
ミスター・ビンス、わかりました。何とか考えてみましょう」

「頼んだよ。全米中の高名な栄養士にも相談してみたんだがダメでね。君達が最後の望みなんだ、頼むっ!」





「あの大金持ちがあそこまで頭を下げるんだ、スパイク君に余程期待しているんだな」

「どうなんだ山岡?何か考えはあるのか?」

「副部長、少し静かにしてくれませんか。考えがまとまるものも、まとまらなくなってしまうんで…」

「何だとこの!上司に向かって!」

「こおらあ!天下の往来で喧嘩を始めたのはどいつでい!全員署までしょっぴくぞ!」

「あらっ、中松警部」

「何だ、山岡の旦那達じゃねえか。ちょうどいい、今から夜食を食いに出るんだ、付きあわねえかい?」

「あのねえ、俺達はさっき食事してきたばかりで…」

「そうかい…残念だな。せっかく銀座の『鰻よし』に行こうかと思っていたんだが…。
『鰻よし』の鰻丼は旨いんだよなあ、タレが飯に染み込んでよう、身はアツアツで…」

「くうーっ!わかったよ!付き合えばいいんだろっ!」





「うーん、やっぱり鰻は旨いねえ!」

「鰻もタレも美味しいけど、この山椒が絶妙のアクセントなのよ!」

「そうそう、量が多過ぎると、身の香りを消しちまうしな。山椒は小粒でピリリと辛い、とはよく言ったもんだよ」

「山椒…小粒…」

「山岡さん?」

「これだ!これでいこう!礼を言うぜ警部、早速ビンスに連絡だ!」

「こ、こらあーっ!本官に勘定を押し付ける気かーっ!公務執行妨害で逮捕するーっ!」





「…これは?」

「日本でよく食べられる野菜で、『ししとう』というものです。…スパイク、ま、かじってみてよ」

「細いピーマンか、いんげん豆みたいだけど…」

カプッ

「か、辛いーっ!み、水ーっ!」

「ヤマオカ君、な、何だねこれは!辛過ぎて食えたものじゃない!」

「そうでしょうね、普段は焼いて辛みを抑えて食べるものですから」

「本当にこんなもので、体重が増えるのかね…?」

「いいえ、とんでもない」

「何だと!貴様、忙しい私をわざわざからかいに来たのか!?」

「ひどいよヤマオカサン、僕は深刻なのに…!」

「では訊くがスパイク、君は体重が増えたとして、今と同じ動きができるのかい?」

「え…?」

「スピードを利して動き回り、飛んで、跳ねて、相手を翻弄するのが君の持ち味だろう?
体重が増えてしまえば、動きにキレがなくなるし、スピードも落ちる。
ミスター・ビンス、あなたが惚れ込んだ彼のレスリングスタイルが出来なくなるのですよ」

「うっ、確かに…」

「日本には『山椒は小粒でピリリと辛い』という言葉がある。小さいからといってバカにはできないという意味だ。
君はこのししとうのように青白くて細いけど、中味は痛烈にスパイシーじゃないか。
今の鮮烈な刺激をもたらすファイトに、もっと磨きをかけた方がずっと君らしいんじゃないかな?」

「…うん、ありがとう、ヤマオカサン!これでふっ切れたよ!」

「スパイクめ、やる気だな。ようし次回のPPVで、ベルトに挑戦させてやるぞ!」

(全員、笑顔)





「スパイク、見事にベルトを獲ったんですって!」

「ふふん、俺のアドバイスのおかげだな」

「山岡の旦那…」

「わわっ、中松警部!どうしたのいきなり!」

「何でも俺が言った一言をヒントに、ビンスから謝礼をもらったそうじゃねえか…。
本来なら俺が感謝されるべきだよな?」

「いやあの、それはね…」

「言い訳無用!人の言葉を無断で拝借たあ、とんでもねえ悪党だ!窃盗罪で逮捕するぅー!」

「ひええ、助けてえーっ!」

-完-


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